明治維新期(1868年~)から明治初期(1870年代後半)にかけての日本経済は、幕末から続いた混乱期を経て、新政府による近代化政策の影響を強く受けながら推移しました。この時期の景気は激しい変動を繰り返し、以下の3段階で詳しく解説します。


1. 明治維新直後(1868年~1873年頃)の景気

明治維新直後の日本経済は非常に混乱し、財政状況も厳しい状況が続きました。

【特徴】

  • 戊辰戦争(1868年~1869年)による社会的混乱と経済の停滞
  • 版籍奉還(1869年)と廃藩置県(1871年)による社会・経済の混乱
  • 米価高騰や物価上昇などのインフレが進行
出来事景気への影響
戊辰戦争1868年~1869年戦乱による農地荒廃、農業生産の停滞、経済活動の低迷
廃藩置県1871年各藩の経済基盤崩壊、失業した武士層の経済的困窮
太政官札の発行(不換紙幣)1868年~紙幣乱発によりインフレ進行
  • この時期は社会が大きく混乱し、景気は全国的に低迷しました。

2. 明治初期の好況期(1873年~1880年頃)

1870年代に入ると、明治政府は近代化政策(殖産興業政策)を本格的に開始し、日本経済は一時的な好況を迎えました。

  • 地租改正(1873年)による財政基盤の安定化
  • 鉄道・通信・工場など近代産業の発展
  • 士族授産政策や政府による近代産業の設立・育成
政策年代景気への影響
地租改正1873年安定した税収により政府の財政が強化されたが、農民負担が増加
鉄道開業1872年(新橋〜横浜間)流通の活性化、近代的産業の発展を促進
富岡製糸場の設立1872年生糸輸出が増加し、日本経済の基盤作りに貢献

このように、明治初期は経済の近代化が急速に進み、都市部では一時的な好況がみられましたが、農村では重い税負担により貧困が広がりました。


3. 明治6年恐慌(1873年~1877年頃)

明治維新後の経済成長は長続きせず、1873年頃から深刻な経済不況(明治6年恐慌)が発生しました。

  • 明治政府による不換紙幣(太政官札や民部省札)の乱発がインフレを招き、物価が急激に変動しました。
  • 銀行制度が未整備であったため、資金不足による企業倒産が相次ぎました。
  • 政府が財政難を理由に士族の秩禄(給与)を削減したため、武士の経済困窮(士族反乱や不平士族の乱が頻発)につながりました。
恐慌要因内容
太政官札の大量発行によるインフレ物価の急激な上昇・下落を招き、社会不安が増大
政府の財政危機徴兵令や地租改正に伴う農村不満の拡大、各地で一揆が発生
秩禄処分(1876年)失業した士族の経済状況が悪化し、士族反乱(西南戦争など)の一因に

4. 明治10年代以降(1877年〜1880年代前半)

明治10年(1877年)の西南戦争後、日本経済は徐々に安定化へ向かいました。

  • 松方正義の財政改革(松方デフレ)により、インフレは収束へと向かい、紙幣整理・銀本位制の導入が進みました。
  • 政府は産業奨励や教育制度を整備し、近代的な産業の発展を推進しました。
政策・出来事時期内容と影響
西南戦争1877年一時的な軍需拡大による景気刺激と、その後の戦後不況
松方財政改革1881年以降紙幣整理や銀行制度確立により金融安定、物価安定化(松方デフレ)
工業化政策の本格化1870年代後半以降繊維業や紡績業など近代産業の基盤が整備され、日本の産業化が本格化

5. 明治初期の社会経済的影響の総括

明治維新から明治初期にかけての経済状況をまとめると以下の通りです。

  • 幕府体制崩壊後の混乱と財政悪化(1868〜1873年頃)
  • 開国と近代化政策による一時的景気回復(1868年~1873年頃)
  • 明治6年恐慌により経済危機に陥るが、松方改革で財政安定化が進む
時期景気状況社会的影響
1868~1872年経済混乱・インフレ物価高騰による庶民の困窮、士族の没落
1873~1877年明治6年恐慌企業倒産、失業者増加、士族反乱・農村一揆
1877年以降徐々に安定化(松方デフレ)紙幣整理による経済の安定化、産業発展

まとめ

明治維新直後の日本経済は、幕藩体制から近代国家への大転換期を迎え、景気は非常に不安定でした。初期にはインフレが庶民生活を圧迫し、景気が乱高下する不安定な時代でした。しかし、その混乱を経て、西洋式の銀行制度や財政改革が推進され、やがて経済が安定し、明治中期以降の近代化・工業化の礎を築くことになりました。

このように、明治初期の景気変動は、日本経済が近代的市場経済へ移行する際に経験した避けがたい混乱といえるでしょう。